小学校のころ、私はねずみを殺したことがある。 意図したことではなかったのだけれど、 幼い頃の私はえらく落ち込んで悩んだ。 それは学校の校庭で、鬼ごっこをしているときだった。 私の小学校には、校庭の隅のほうに富士山という名の コンクリートの山があった。 山といっても、小学生の足でも10秒なくても一周 できる程度の、とても小さい遊び場だ。 あの頃の私には、とても大きいモノだったのだが 小学校を通るたびに、段々小さくなってゆく気がするので もうあまりあの小学校の前は通らないことにしている。 富士山の周りは砂地だけれども、少し離れると そこは、あまり手入れのされていない草むらになっている。 私は追いかけてくる鬼から必死に逃げようと 走りにくい草むらの方へ駆けて行った。 不意に、足の裏に変な感触が広がった。 数歩前のめりになり、なかなか後ろを振り向けなくて とりあえず靴の裏を見た。 靴には湿った土がついていたぐらいで、特に変化がなく 鬼が遠くにいることを確認しつつ しかたなく後ろを振り返り、あの何かに近づいていった。 嫌な予感はしていたのだけれど、 その時は何か見なくてはいけないような気がした。 そこにはねずみの死骸が横たわっていた。 すぐに踏んだ何かはねずみだったのだと気がつき、 暫く固まっていたが、昼休みが終わるチャイムがなった瞬間に 私は教室へ走った。もう振り返ることはしなかった。 それから私は、小さい生き物が苦手になった。 横をチロチロ走るその動物を見ていると、 踏み殺したねずみが、いつも頭をよぎる。 そして、忘れそうなころに、いつもその夢をみる。 夢の中で、私はまたねずみを殺し。 ねずみは何度もつぶれて死んでいく。 忘れられないのか、忘れたくないのか、 ともかくその記憶が、動物との一番強烈な思い出で あることは間違いないんだろう。 <*・次> |