子供の頃に描いた絵が出てきた。 画用紙いっぱいに描かれた虹の絵だ。 クレヨンで描かれた絵はつたなく、 線が揺れているが、軽い曲線からその絵は虹だとわかる。 虹の下には笑っている人間らしきものもいた。 お世辞にも上手くはないが。まあ、子供らしい絵だとは思う。 よく見るとその虹は七色ではなく六色だった。 ただ単に描き忘れといえばそうかもしれないが、 この絵に関しては少々思い当たることがある。 虹のはじまりがどうなっているか考えたことはないだろうか? 子供ながら私はかなり真剣に考えたことがある。 近くにあるようで遠くにあるそれは、 観察する余裕もなく消えてしまう。 けれど私は虹のつけねを見たことがある。 学校帰り、降っていた雨が止み空に大きな虹がかかった。 その虹は私のほんの少し前の草むらから出ていたのだ。 小さい頃に見た夢は、しばしば過去の記憶とゴッチャになることがある。 なんだか淋しい気もするが、要するにこの記憶もそれなんだろう。 虹のつけねからは、いつも見ている時よりかなり鮮やかに 七色の光が伸びていた、いや、飛び出していたように見えた。 そして、その虹のつけねはまるで色を吸い取られたように白黒なのだ。 見てはいけないモノを見てしまったようで、子供心にその色のない地面が 何故かとても可哀想でならなかったのを覚えている。 虹が現れると、その分地球の一部の色が消えてしまうような そんな気がしたのかもしれない。 虹のつけねを見てしばらくして(多分その夢を見てだと思うが) 私は虹の絵を描いた。 虹の光がすべての色を吸い取らないように、私は六色の虹の絵を描いた。 希望の色の光をその地に残して。 どこまでがちゃんとした記憶かはよく解らないが、 絵があるということは、少なくとも絵を描いた記憶は本当の記憶なんだろう。 ちなみに、私が残した希望の色はなんだったのかだが 笑っている人の足元いっぱいに塗りたくられている、 黄色いクレヨンの色みたいだ。 |