紫色の服の男の子


小さい頃、私は良く怪我をした。
今ではそんなことはないが、昔は毎日のように体中に痣をつくっていた。
それだけ元気だったのだが、親はなにかと心配だったようだ。
特に一時期鼻血が毎日でつづけて止まらなかった時は、
悪い病気ではないかと母親がオロオロしていた。
病院へ行くと、ただ鼻の血管が弱いとのことだったのだが。

そもそもなんで鼻の血管が切れやすくなったのかなのだが、
変な男の子と共に、まだウッスラ記憶に残っていたりする。

私の家は一度建て直をしている。
母が十才ごろに造られた懐かしい我家は、
私が十才頃に新しくピカピカになった。
家が建つまでの三ヶ月、壊される我家を残し私達は
少し離れた借家へ住むことになる。
今でこそ家から自転車で二十分くらいのものだが、
引越しなど経験したことのない私にとって、
環境が変わるそれは一種の大冒険だ。
学校から帰ると毎日のように、借家の周りを駆け回って探検していた。

借家の側には細長い公園があった。
横幅は二十メートルもないけれど、縦幅は一キロほどある。
町の中を縫って走る、お散歩道だった。
借家に居る間は、主にそこが私の遊び場だ。
兄弟はもちろん、友達ともそこで遊んだ

一ヶ月くらいたち、借家にも慣れてきた頃に
私達が遊ぶ少し向こうに、男の子が現れるようになった。
紫の服を着た男の子はたびたび現れ、私達が遊んでいる所を
いつも入りたそうにじっと見ているのだ。
遊んでる所を見られて居ると言うのは、奇妙にむず痒く
また、話し掛けてもこないその男の子に
ほんの人さじ程度の恐怖も感じていた。

私達はある日、その紫の服を着た男の子を遠ざけようと話し合い
次の日すぐにそれは決行される。
男の子をまこうと、皆で必死に走って逃げた。

紫の服を着た男の子は、私達の意図がわかっていたのか
またはただついてきたかっただけなのか解らないが
離されないように懸命についてくる。
追いつかれるかもしれないドキドキ感と、なにやらいけない事を、
イタズラしているようなワクワク感と、それは一種のゲームのようだ。
私は一番後ろを走っていて、何度も後ろを振り返った。

一回振り返る、振り返って見る。
紫の服を着た男の子を視界に捕らえ、
私はスピードを上げようと急いで前に首を回す

その瞬間に、目の前に明るく光が走り、前に出したはずの体は
まったく反対の方向へ弾けとんだ。
鈍いけどおおきく響く音、一瞬何が起きたか理解できなかったが
数秒後れて、私に強烈な痛みが届く。
電柱にぶつかったのだと気が付くのに、そんなに時間はいらなかった。

アニメではよくある光景だが、
実際そんなことになったら痛いではすまない。
鼻血は止まらないわ、すぐにオデコにできたタンコブは
目を隠すほどに腫れ上がった。
私と一緒に逃げていた友達は、気がつき集まってくるが
心配するどころか大爆笑だった、私にはとても笑えなかった。
泣きながら家に帰る途中後ろを振り返るが、男の子はもういなかった。

それから一週間ほど、私は頭痛に苦しむことになる。
ようやく怪我も治り、外で遊べるようになったころには
紫の服を着た男の子は見かけなくなった。
皆は私の怪我のインパクトでとっくにそんなこと忘れていて、
彼がその後どこへいったのか知ってる人はいるわけもなかった。
それから見かけることもなく、彼は消えてしまった。
残ったのは、それから二日と空けずに流れてくる私の鼻血だけだった。

それから一年ほど、私は耳鼻科へ通い
鼻血を治すことになったのはまた別の話である。
あの後何度も考えることなのだが
一度くらいあの男の子と一緒に遊んでもよかったかなぁ、と想うのだ。





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